本申請課題の目的はシャペロンであるHSP70に会合するタンパク質をすべて捕捉(包括的相互作用解析)することでストレス関連タンパク質を同定し、心保護あるいは心肥大発症・進展に関わる分子機序を解明することである。当初予定した平成22年度の研究実施計画は1.抗HSP70モノクローナル抗体および抗体カラムの作製、2.マウスの心肥大・心筋梗塞モデルからのタンパク質サンプルの調製、3.HSP70抗体カラムによるアフィニティー精製、4.安定同位体による標識、5.質量分析による相対定量と同定、であった。しかし、本年度は追加採択(10月)であったため、当初の予定を大幅に遅れた。HSP70の中でもHsp72とHsc70を標的とし、抗Hsp72および抗Hsc70モノクローナル抗体作製とアフィニティー精製の実験系の構築を行った。既に作製していた抗Hsc70抗体に加え、腸骨リンパ節法にてHsp72抗体を2種類作製したのち、NHSビーズにカップリングした。当初、抗体カラムの作製を予定していたが検討の結果、バッチ法を採用し、細胞の固定や抗体量など実験条件の検討を行った。実験系の精度を確認する目的でアンジオテンシンIIを負荷して経時的にサンプリングしたヒト血管平滑筋細胞のタンパク抽出液に対して作製抗体にてアフィニティー精製を行った後、LC-MS/MSにて結合分子の同定を行った。結果、既にHsp72との結合が報告されている分子を含め、複数の結合分子を同定した。一方でアンジオテンシンII刺激に依存して結合する分子は予想に反して少なかった。そこで現在、アフィニティー精製の実験系を再検討している。さらに作製抗体はすべてラットとは交差するものの、マワスと交差しなかった。よって心疾患モデルはラットを用いたアンジオテンシンII持続投与による心肥大モデルに限定することにした。現在までに心肥大モデルの心臓抽出液は調製済みである。
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