本年度は、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)硝子体内投与モデルとその対照(健常)ラットを用いてin vivo及びin vitro薬理学的検討を行い、次のような成果を得た。 1.網膜血管平滑筋の機能的・形態学的変化:(1)NMDA硝子体内投与モデルラットにおいて、BK_<ca>チャネル活性化薬のBMS-191011、β_2-AR及びβ_3-AR刺激薬のsalbutamol及びCL316243による網膜血管の拡張反応は健常ラットと同程度であった。このことは、網膜血管平滑筋の機能は障害されていないことを示唆している。(2)NMDA硝子体内投与6時間後において、脂質過酸化のマーカーである4-Hydroxy-2-nonenalが網膜神経のみならず、網膜血管にも強く発現していた。従って、緑内障モデルラットでは、初期段階から網膜血管の酸化ストレスが亢進しており、それが内皮機能障害を導いている可能性がある。 2.緑内障モデルラットにおけるβ_3-AR刺激薬の網膜循環及び網膜神経細胞に対する効果:(1)NMDA硝子体内投与モデルラットにβ_3-AR刺激薬CL316243を静脈内投与すると網膜血流量が増大するか否かを検討したところ、健常ラットと同様の網膜血流量の増大が観察された。このことは、β_3-AR刺激薬が緑内障においても有効な網膜循環改善薬であることを示唆している。(2)健常ラットにCL316243を硝子体内投与しても網膜血管が拡張すること、またNMDA硝子体内投与モデルラットにCL316243を硝子体内投与すると網膜神経傷害が抑制されることが明らかとなり、β_3-AR刺激薬が網膜循環改善作用のみならず網膜神経保護作用をも有することを示唆した。 以上の結果は、β_3-AR刺激薬が網膜循環障害の改善及び網膜神経傷害の抑制作用を有する緑内障の新規予防・治療薬となる可能性を示唆している。
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