本年度は筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)原因遺伝子の一つであるTDP-43に着目し研究を行った。TDP-43は殆どのALSで認められるユビキチン陽性封入体の主要構成成分であり、孤発性家族性の両ALSで変異が認められていることからALS発症に密接に関与していることが示唆されている。本研究では、ALS患者においてTDP-43の発現が増加していることに着目し、TDP-43発現増加による神経毒性メカニズムについて解析した。その結果、TDP-43は内在性のわずか2~5倍量の発現により神経細胞死を導くことを見出した。また神経細胞死メカニズムはBimの発現誘導およびBcl-xLの発現低下によりCaspase依存性の細胞死を導くことを明らかにした。さらにALSにおいてはTDP-43が断片化し、断片化TDP-43が細胞内に蓄積・凝集していることが報告されている。我々はTDP-43の断片化メカニズム、TDP-43断片の同定およびその毒性について詳細な解析を行った。その結果、TDP-43は小胞体ストレスを含む種々のストレスによって活性化されたCaspaseにより、Asp89およびAsp169部位で切断され、ALSで認められる病理像と一致したTDP-43断片が産生されることを明らかにした。さらに重要なことに、これらの断片化TDP-43は、我々が用いたモデルにおいては神経毒性を示さず、TDP-43による神経細胞死を抑制する方向に機能することが明らかとなった。今後はALS治療薬開発を最終目標として、これらin vitroでの結果をin vivoにおいて検証すると同時に、ALSにおけるTDP-43の発現増加メカニズム、TDP-43誘導性細胞死のより詳細なメカニズムを明らかにし、TDP-43による神経細胞死を抑制できる薬剤の開発に取り組む予定である。
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