肺静脈心筋は電気的に不安定であり自発活動を示すことが知られている。肺静脈での異常な電気的興奮が心臓に伝わると心房細動などの不整脈になることが示されており、肺静脈の性質を明らかにすることは重要である。今年度は肺静脈心筋自発活動に影響を与えると考えられる神経伝達物質に焦点を当て、肺静脈心筋自発活動への交感神経系の関与を明らかにすることを目的とした。 カルシウム蛍光色素を導入した単離肺静脈心筋細胞に交感神経の伝達物質であるnoradrenalineを処置すると、細胞内カルシウム濃度の上昇に続いて、カルシウムオシレーションが観察された。 次に薬理学的検討を迅速に行うことができる収縮力測定法を肺静脈組織標本に適用した。摘出した肺静脈組織の一端をアイソメトリック・トランスデューサーに接続し、肺静脈の輪走筋方向に100mg程度の静止張力を与えると50mg以上の収縮力が検出でき、薬理学的検討が可能であった。およそ4割の標本で自発活動(自発的収縮)が見られたが、この自発活動は頻度が不安定(約1Hz)であり持続しなかった。自発活動を示さない標本にnoradrenalineを処置すると、高頻度(約3Hz)かつ30 分以上持続する自発活動が誘発された。また神経終末からnoradrenalineの遊離を促すtyramineを処置しても自発活動が誘発された。この自発活動はpropranololまたはprazosinにより抑制された。さらに、isoproterenolまたはmethoxamineによっても自発活動が誘発されたことから、自発活動の発生にはα1およびβ受容体が重要であることが判明した。以上の結果から、肺静脈心筋の交感神経終末から放出されたnoradrenalineはα1およびβ受容体を介して細胞内カルシウム濃度を上昇させ、自発活動を惹起することが判明した。
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