1.非環式レチノイドの標的タンパク質の同定・性質決定 昨年の研究において、非環式レチノイド(ACR)の候補標的タンパク質としてPRDX4、eIF5Aを同定したが、これらのsiRNAによる発現阻害実験ではACRによる肝癌細胞死の誘導作用への影響は認められなかった。PRDX4を発現抑制した肝癌細胞では増殖能が亢進した。また、ビーズの結合部位が修飾されたACRが殺癌細胞作用を持つかどうか、COOH基を修飾したメチルエステル体及びエチルエステル体を用いて癌選択的な作用を確認したところ、明瞭な細胞死誘導活性が認められなかったため、現在、COOH基の反対側にビーズを修飾させてCOOH側への結合化合物の取得を試みている。標的タンパク質探索の別のアプローチとして、ACR処理した肝癌細胞と正常細胞を用いたマイクロアレイ、トランスクリプトーム、メタボローム解析による網羅的な比較検討を行った。その結果、RafやNF-kBの抑制に関与するGILZ/TSC22D3の発現亢進及びメチオニン代謝、特にS-アデノシルメチオニン(SAM)の合成に関わるメチオニンアデノシルトランスフェラーゼIIa (MAT2A) の発現抑制がACR処理した肝臓癌特異的に認められた。 RafやNF-kBは癌細胞の増殖に関与、また、肝臓癌の前癌病変ではSAMの量の減少とMAT2Aの高発現が報告されているため、ACRによるGILZ/TSC22D3やMAT2A遺伝子発現の選択的な抑制作用が肝臓癌発症予防に関与している可能性が示唆された。 2.RXRのリン酸化阻害物質の探索 RXRのリン酸化を阻害する化合物の探索については、抗体量が不十分なため、施行しなかった。ACRとPI3K阻害剤の併用による肝癌細胞の相乗的増殖抑制効果の分子機構解明の一環として、RXRリン酸化の相乗的抑制の観察に本研究で開発したリン酸化RXR特異抗体を使用した。
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