研究概要 |
重篤な障害を受けた肝臓では、未分化な肝前駆細胞(オーバル細胞)が活性化して再生に寄与している。最近、オーバル細胞の性状が解明されつつあるが、その動態を制御する分子機構については未だほとんど明らかとなっていない。 本研究課題では、マウス成体肝オーバル細胞の発生・増殖・分化を制御するシグナルネットワークの様態と作用機序の解明を目的として、「オーバル細胞に対するWnt, FGF, Tweakの協同的作用の可能性の検証とin vivoにおける機能解析」および「オーバル細胞とニッチ構成細胞との相互作用を担う新規分子の同定と機能解析」に並行して取り組んでいる。 これまでの解析から、障害肝においてThy1陽性細胞がFGF7を産生し、オーバル細胞の周囲に集積していることを明らかにした。一方で、オーバル細胞はFGF7に対する特異的な受容体FGFR2bを発現していた。Fgf7遺伝子欠損マウスでは、肝障害時のオーバル細胞の誘導が著しく阻害されており、致死率が有意に上昇した。さらに、マウス成体肝臓にFGF7を強制発現させることで、オーバル細胞に類似した細胞が誘導されると共に、肝障害の緩和が認められた。これらの結果から、Thy1陽性細胞がオーバル細胞に対するニッチを構成し、FGF7が機能的ニッチシグナルとしてオーバル細胞制御に必須の役割を担うことが、初めて明らかとなった。以上の成果について、国内外の学会において発表を行うとともに、現在、国際誌に投稿中(査読中)である。 また、正常肝および障害肝を用いたマイクロアレイ解析を実施し、オーバル細胞とニッチ構成細胞との相互作用を担う可能性のある種々の候補分子を同定した。現在、オーバル細胞側より産生されてニッチ側の制御に関わると想定される分子に重点を置きながら、機能的な解析を進めている。
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