スフィンゴ糖脂質(GSL)は、がん細胞や神経細胞で特に重要な役割を果たしており、がんや神経変性疾患などの病態に深く関与している。GSLは脂質ラフトと呼ばれる細胞膜ドメインに局在し、細胞機能の調節に重要な役割を果たしている。しかしながら、GSLの細胞内輸送メカニズムや脂質ラフトへの集積メカニズムはほとんど理解されていない。本年度は、がん関連GSL及び神経変性疾患関連GSLについて、以下の成果を得た。 GD3は、メラノーマに高発現するGSLでメラノーマ抗原の一つである。GD3は脂質ラフトにおいて、悪性形質に関わるシグナルを増強していることが示されている。申請者は、昨年度報告したGD3によって誘導される転写因子SREBPの活性化の重要性について、さらに解析を進めた。その結果、極めて特異的にSREBPを阻害する低分子量化合物がヒトメラノーマ細胞の増殖を顕著に抑制することが示された。したがって、SREBPを介した脂質ラフトの維持がメラノーマ細胞の悪性形質に重要な役割を果たしていることが明らかになった。 ニーマン-ピックC型(NPC)病は、重篤な遺伝性の神経変性疾患である。患者の脳などではコレステロールと特定のGSLが蓄積する。GSLは、NPC病の病態に重要な役割を果たしており、その蓄積を改善することはNPC病や他のGSL蓄積症の治療方法の開発にとって重要である。申請者らは、本研究課題で樹立した疾患関連GSLを蓄積するNPC1欠損細胞を用いて、リソソームから細胞膜へ疾患関連GSLの輸送を促進する低分量化合物を3種類発見し、うち1種類はリソソームの蓄積を軽減することが示された。また、この効果はNPC病患者由来の細胞においても確認された。これらの結果から、疾患関連GSLのリソソームから細胞膜への輸送とリソソームの蓄積を軽減する低分子量化合物は、NPC病の病態を改善することが期待された。
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