MAPKのErk2の恒常的活性化型変異を原因とする胎児発生異常や器官形成異常を含む病態の発症機序を解明する目的で、Erk2の恒常的活性化型変異(sem型点突然変異)を持つマウス(Erk2 semノックインマウス)と血球および血管内皮細胞特異的にCreを発現するTie-2-Creマウスをかけ合わせ、血球および血管内皮細胞でのみErk2の恒常的活性化型変異を持つマウス(血球・血管内皮特異的Erk2 semノックインマウス:Erk2 floxS/+Tie-2-Cre)を作製した。全身性のErk2 semノックインマウスは受精後15日目までには死ぬことから胎生致死であったが、血球・血管内皮特異的Erk2 semノックインマウスは野性型マウスの約25%の確率で生まれ、生存可能であった。体重を比較したところ、生後10-12日のマウスで野性型では平均7.89グラムであったのに対し、血球・血管内皮特異的Erk2 semノックインマウスは平均6.55グラムと野性型マウスより約20%低体重であり、その差は有意であった。RAS制御因子の活性化型変異を持つNoonan症候群、LEOPARD症候群、cardio-facio-cutaneous(CFC)症候群といった一連の病態では、その身体的特徴として低伸長が見られることから、その知見と一致する。細胞早期老化が影響していると推測していることから、細胞老化を制御することが知られているp53に注目し、p53ヘテロノックアウトマウス(p53+1/-)とErk2 floxS/+Tie-2-Creの交配からp53+/-Erk2 floxS/+Tie-2-Creマウスを得ようとしたが、現在のところ仔を得ていない。p53+/-マウスは野性型マウスとほぼ同じ確率で産まれてくることから、血球・血管内皮特異的Erk2 semノックインマウスの胎児期発生におけるp53の必要性が示唆された。
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