研究概要 |
昨年度において、c-Mycの代わりにMycファミリー遺伝子の中のL-Mycを用いることでマウスおよびヒトiPS細胞の樹立を効率的に行えることを明らかにした。また、マウスL-Myc iPS細胞由来キメラマウスの実験から、L-Myc iPS細胞の安全性(腫瘍形成がほとんど無い)も確認できた。Mycの特徴である形質転換活性を検討したところ、c-Mycは非常に強い活性を示したのに対して、L-Mycはほとんど活性を示さなかった。このことからMycの形質転換活性がiPS細胞の機能と密接に関係していることが示唆された。 以上の結果から、本年度はc-Myc、形質転換活性欠損型c-Myc、L-Mycの機能比較解析を行うことでiPS細胞の樹立メカニズムなどの解明を進めた。まずは、ヒト線維芽細胞にiPS細胞誘導因子のSox2,Oct3/4,Klf4(3 factors)と共にc-Myc、形質転換活性欠損型c-Myc、L-Mycを導入し7日後に細胞を回収しRNAサンプルを調整した。このRNAサンプルを用いてマイクロアレイによる遺伝子発現解析を行った。c-MycとL-Mycの場合を比較すると、L-Mycを導入した群において元々線維芽細胞で高発現していた遺伝子の発現抑制が強く認められた。また、c-Mycを導入した群においては細胞増殖を促進するような遺伝子発現の向上がL-Mycより強い傾向が認められた。つまり、L-MycはiPS細胞の樹立初期において線維芽細胞の性質をキャンセルしその後のiPS細胞化をスムーズに進めるように機能していることが推測された。フローサイトメーターによる検討からもL-Mycが線維芽細胞で高く発現する細胞表面マーカーの発現を効率良く低下させることが分かった。c-Mycの形質転換活性欠損型を用いて解析を行ったところL-Mycと同様に機能を示すことが分かった。 以上の結果から、c-Mycの強力な形質転換活性はiPS細胞樹立初期には負に働き、形質転換活性をほとんど持たないL-Mycは線維芽細胞で高発現する遺伝子の発現抑制を効率的に行いiPS細胞の樹立を促進していることが考えられた。
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