研究概要 |
我々は増殖する体細胞に4つの転写因子 (OCT3/4, SOX2, KLF4, c-MYC) を導入することで、多能性幹細胞へと変化させられることを見出した。この変化は約3週間の時間を要し、その間細胞は活発に増殖するがその重要性については不明な点が多かった。 本研究では、遺伝子導入後に細胞の増殖を強制的に停止させ、遺伝子発現変化を継時的に解析した。細胞増殖が正常に起こる状態では、全体の約15%程度の細胞が分化多能性細胞特異的表面抗原TRA-1-60陽性となる。増殖を停止させるとTRA-1-60陽性細胞の出現効率は著しく低下するが、一方で少数の細胞はTRA-1-60陽性となることが分かった。この結果は効率は低いものの増殖非依存的にリプログラミングが起こることを示唆している。 次にマイクロアレイで遺伝子発現解析を行うことにより詳細に細胞の性質変化を検討した。通常の増殖状態では、まず体細胞で発現する遺伝子群の低下がみられ、その後分化多能性細胞で発現する遺伝子群が上昇してくる。増殖を強制的に停止させた状態では、もっとも初期に起こる体細胞遺伝子の抑制は起こったものの、分化多能性遺伝子の上昇は著しく阻害されていた。これらの結果は、細胞増殖はリプログラミングの開始には必須ではないが、その後の成熟過程において重要な役割を果たしていることが明らかになった。また、我々はLIN28が増殖非依存的なリプログラミングの開始を促進することを見出した。一方で、p53の抑制やCyclin Dの強制発現は効果が見られなかった。これらの結果は、リプログラミングを促進する因子が増殖に関与して機能しているのかを明らかにするものである。
|