ヒト造血幹細胞(HSC)を免疫不全マウスに移植すると、マウス骨髄内にヒトの造血系が再構築する。申請者らは、ヒトHSCの自己複製能には限界があり複数回移植を繰り返すと、HSCの自己複製能の低下を誘導し、2次移植から3次移植に至る過程において生着率が著しく低下することを明らかにした。そこで、移植前、1次移植、2次移植の各段階におけるヒトHSC細胞の性状解析を行なった。その結果、移植の進行にともなってヒトHSC細胞の活性酸素種(ROS)レベルが上昇するとともに、γH2AXを指標としたDNA損傷が、特に2次移植骨髄に生着しているヒトHSC細胞において顕著に蓄積していることを見いだした。このDNA損傷の蓄積は前駆細胞集団には認められなかった。ROSの増加とDNA損傷の関係を明確にするために、試験管内においてヒトHSC細胞にL-Buthionine-sulfoximine(BSO)を添加して培養することにより細胞内ROSの蓄積を誘導したところ、BSOの濃度依存的にDNA損傷が引き起こされた。DNA損傷によってヒトHSCにおけるink4aなどのCDKIの発現が亢進し、細胞増殖停止状態に陥っていた。さらに、ROSによるDNA損傷を受けたヒトHSCの骨髄再建能が低下していた。ROSによるDNA損傷は抗酸化剤であるN-Acetyl-L-Cysteine(NAC)の添加によって抑制された。以上の結果から、複数回移植といった造血再生反応を繰り返すと、ヒトHSC内のROSレベルの上昇し、DNA損傷の蓄積によって誘導されるsenescenceに至るために、ヒトHSCが造血再生能を失うということを初めて明らかにした。
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