研究概要 |
Pyrrole-Imidazole(PI)ポリアミドは,天然に存在する抗生物質ディスタマイシンをモチーフとしたN-methyl-pyrrole(Py)及びN-methyl-Imidazole(Im)から構成されるDNAの副溝に結合する小分子であり,PyとIm及びβ-alanine linker(β)、γ-aminobutyric acid turn(γ)の組み合わせによりDNAの塩基配列を認識し,標的遺伝子の発現を抑制することが知られており、抗腫瘍活性や神経芽腫,腎障害,肥厚性療痕や網膜疾患などに対する治療薬としての研究開発が行われている。このように疾患治療薬として将来有望なPIポリアミドであるが、現在の課題として配列認識数の制限、認識配列そのものの制限、そして長鎖PIポリアミドの合成の困難さといった問題がある。そこで本申請ではこれまでの合成法を改良し、長鎖ポリアミドの合成法の開発、さらに配列選択性を高める為の設計法を確立することを目的とし、本研究に取り掛かっている。これまでの研究から12塩基認識のPIポリアミドABCA1-12をポリアミドブロックにより高収率な合成に成功し、BiacoreアッセイによりDNAとの高い親和力が得られることを確認した。そこで本年度ではこのABCA1-12の遺伝子発現抑制能を検討するため、HeLa細胞及びT24細胞にABCA1-12投与しリアルタイムPCRによりABCA1の発現をmRNAレベルで測定したところ、10μMの濃度において抑制効果が確認された。そこでマウスに対し同濃度のABCA1-12を尾静脈から投与したところ、投与直後にマウスがショック死を起こしてしまった。解剖の結果、ABCA1-12がマウスの血管内で析出し血栓を引き起こしていることが明らかとなった。これはABCA1-12が水溶性の低いImを多量に含んでいるためであった。そこでこの問題を克服するためにより低濃度でDNAに結合する環状PIポリアミド及びカチオン性アミノ酸のリシンテールの付加によるPIポリアミドの水溶性の向上を行なっている。
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