研究概要 |
NGFは神経栄養因子であると同時に,炎症性サイトカインとしても働く.我々はグリオーマ細胞においてNGF遺伝子の発現に酸化ストレス応答性の転写因子であるNrf2が関わっていることを見出した.免疫応答時のNGF誘導における酸化ストレスあるいはNrf2の関わりを解明するために,23年度において以下のことが明らかとなった. T98Gおよび,U373MG細胞においてカルノシン酸によるNGFの誘導的発現にNrf2が関わっていることが明らかとなった.また,IL-1βやTNFαといった炎症性サイトカインによるNGFの誘導において,カルノシン酸と共処理することにより,より多くの誘導が見られたことから,炎症性サイトカインとNrf2経路によるNGF誘導における協調作用があることが明らかとなった.一方,T98G細胞においてはNrf2がNGF遺伝子の構成的発現に関わっていることも明らかとなった.しかしながら,マクロファージ系(RAW264.7,THP1細胞)ではカルノシン酸によるNGF誘導は見られず,Nrf2の関わりは不明のままである. また,NGF遺伝子上のNrf2応答領域を検索したところ,NGF遺伝子プロモーターより88kb上流の領域にNrf2応答配列が存在することが明らかとなった.この領域を用いたレポーター解析,あるいはChlP解析により確かにこの領域がNrf2を介したNGFの誘導に重要であることが判明した. これまで,ラジカル補足剤であるエダラボンがNGFを誘導することが分かっていたが,このエダラボンとカルノシン酸がNrf2依存的に協調してNGFを誘導することも明らかとなった. 以上のことから,内在性のNrf2の活性を制御することによりNGFの発現を制御し,神経変性疾患や,炎症性疾患に対する有効な治療法,予防法の開発に繋がることが示唆される.
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