神経軸索ジストロフィー発症メカニズムの解明に向けて、疾患モデルマウスであるiPLA2beta欠損マウスを使用し、1病理学的、2生化学的、3遺伝学的解析を行った。 1.iPLA2beta欠損マウスは臨床症状の出ていない早期(15週齢)に神経軸索ジストロフィーの病理学的特徴であるスフェロイドと呼ばれる神経軸索腫大を認め、スフェロイドは変性ミトコンドリアを含むことを明らかにし、神経軸索ジストロフィーの初期病変がミトコンドリアであることを突き止めた。さらに、質量顕微鏡を使用した解析により、iPLA2beta欠損マウスでは脂質組成が変化しており、特に脊髄後角でDHA(ドコサヘキサエン酸)を含むホスファチジルコリンの蓄積が認められ、脂質リモデリングにおけるiPLA2betaの役割を明らかにした。 2。iPLA2beta欠損マウス肝臓より単離したミトコンドリアは、野生型マウスより単離したミトコンドリアに比べ、カルシウム負荷に対する脆弱性(膜電位低下、膜透過性遷移現象の亢進)が観察され、iPLA2betaがミトコンドリアの機能維持に重要であることを示した。 3.ミトコンドリア膜透過性遷移現象を誘導できないシクロフィリンD欠損マウスとiPLA2beta欠損マウスを交配し、ダブル欠損マウスを得た。今後、表現型の解析と並行して、病理学的解析、生化学的解析を行う予定である。 以上、神経軸索ジストロフィーの疾患モデルマウスを使用し、その発症メカニズムにミトコンドリアが関与することを明らかにした。さらに、今後、ミトコンドリア膜透過性遷移現象を制御し、治療への応用を目指す。
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