私共はこれまでに発癌に関連するWntシグナルが、その受容体であるLRP6やFrizzledのエンドサイトーシスにより制御されることを明らかにしている。本年度はDkk1によるWntシグナルの抑制機構について解析を行った。Wnt3a刺激によってLRP6はリン酸化されるが、このリン酸化は細胞膜上の脂質ラフトと呼ばれるシグナル伝達の場となるマイクロドメインで起きることを明らかにした。次にDkk1は脂質ラフトに局在する内在性LRP6を非脂質ラフト部位へ移行させ、クラスリン依存性エンドサイトーシスを誘導することを示した。これらの結果から、Dkk1はLRP6を脂質ラフトから非脂質ラフトへ移行させて、クラスリン依存性エンドサイトーシスを誘導することでWntシグナルを抑制することが示唆された。HEK293細胞に強制発現したLRP6-GFP、およびビオチン標識した内在性LRP6はDkk1刺激によりエンドサイトーシスされた。一方、LRP6-GFPと共にエンドサイトーシスされたDkk1はリソソームに輸送されて分解されることを示した。これまでに細胞表面に存在するプロテオグリカンの一つであるGlypicanがWntやDkk1の活性を制御することが報告されている。Glypican4は脂質ラフトと非脂質ラフトの両方に局在し、Wnt3aと結合することを示した。Glypican4はWnt3aシグナルを増強するが、非脂質ラフトにのみ局在する変異型Glypican4はWnt3aシグナルを抑制した。これらの結果から、Glypican4が脂質ラフトにWnt3aを集積して、そのシグナルを増強することが示唆された。来年度はGlypican4のWnt受容体のエンドサイトーシスやWnt-βカテニン非依存性経路における機能を解析する予定である。
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