私共はこれまでに発癌に関連するWntシグナルの活性制御に、受容体であるLRP6のエンドサイトーシスが関与することを見出しており、Wnt3a刺激によって細胞膜上の脂質ラフトと呼ばれるマイクロドメインにおいて、LRP6がリン酸化されることを明らかとした。本年度は、脂質ラフトと非脂質ラフトの両方に局在するプロテオグリカンであるGlypican4(GPC4)によるWntシグナルの制御機構を解析した。GPC4はWnt3aおよび細胞運動を制御するWnt5aと結合したが、Wnt3aシグナルを抑制するDkk1とは結合しなかった。GPC4を発現する細胞をWnt3aで刺激すると、発現しない細胞と比較してLRP6のリン酸化とエンドサイトーシスは亢進したが、脂質ラフトに局在できないGPC4変異体の発現では抑制された。細胞をWnt3aで刺激するとAxin2 mRNAが増加し、これはDkk1やWnt5aにより抑制された。GPC4を発現するとWnt3aによるAxin2 mRNAの増加は亢進され、これはWnt5aの存在下では抑制されたがDkk1では抑制されなかった。これらの結果から、GPC4は脂質ラフトにWnt3aを集積することでLRP6のリン酸化やエンドサイトーシスを増強するが、GPC4と結合しないDkk1は集積されず、Dkk1の抑制作用はGPC4存在下では減弱されることが示唆された。GPC4を発現する細胞では、Wnt5aによるRacの活性化と受容体であるRor2のエンドサイトーシスが亢進し、脂質ラフトに局在できないGPC4変異体でも同様の結果が得られた。以上の結果から、GPC4は細胞膜上にWntを集積することで、脂質ラフトにおいてWnt3aシグナルを増強し、非脂質ラフトにおいてWnt5aシグナルを増強することが示唆された。
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