ヒト血中には細胞膜上のインスリン受容体由来と考えられる可溶性インスリン受容体(sIR)が存在し、糖尿病患者で有意に増加している。sIRはインスリン結合部位であるαサブユニットを有しており血中のインスリンと結合しインスリン作用を減弱していると考えられ、多様な因子により構成されるインスリン抵抗性の一端を担っている可能性がある。sIRとインスリン抵抗性との関係を明らかにするため、血中sIR値とインスリン抵抗性(HOMA-IR)を検討したところ有意な正の相関を示唆する結果が得られた。そこで、インスリンクランプ法はインスリン抵抗性を最も正確に評価する方法論として確立しており、インスリンクランプ法によるインスリン抵抗性の評価とsIR値の関連について症例数を増やしつつ検討を進めている。sIRが血中のインスリンと結合しインスリン作用を減弱しているとするとその正確な定量は糖代謝を考える上でも重要である。sIRに結合するインスリンを定量するため、種々の抗インスリン受容体抗体を用いてsIRを免疫沈降させる検討を行った。結果、sIRからインスリンを遊離させることなくsIRを効率よく免疫沈降できる抗体は限定されることが判明した。次に、ヒト培養細胞株を用いてsIRの産生を再現するin vitro系を構築した。本系では培養液中にsIRが存在するが、そのsIRはヒト血中に存在するsIRと分子的構造においてほぼ同一であることが確認できた。本系は培養液中のブドウ糖濃度に依存してsIR濃度が増減するなどin vitro系としての正当性を確認できた。さらに本系を用いることにより、sIRの産生は元から短いインスリン受容体が産生されるのではなく、細胞膜表面上に存在する完全なインスリン受容体が切断されていることをほぼ実証できた。さらに本事象は高ブドウ糖によりもたらされる高浸透圧効果でないことも確認され、細胞内で代謝されたブドウ糖が何らかの生化学的分子生物学的機構によりインスリン受容体の切断を促進していることが示唆された。
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