虚血性心疾患は、血流阻害によって局所的低酸素環境が生じ、心筋細胞の細胞死が引き起こされることに起因する。この治療戦略として、低酸素環境下における心筋細胞死の分子機構を詳細に明らかにし、細胞死を抑制する因子を標的とする新しい手法の開発が有用である。本研究では、この心筋細胞死を制御する分子として、上皮増殖因子(epidermal growth factor;EGF)ファミリーに属する heparin-binding EGF(HB-EGF)に関する研究を実施した。HB-EGFは細胞表面に発現し、メタロプロテアーゼであるADAMファミリーによるsheddingを受けて分泌型の増殖因子となる。またsheddingによって生じるC末断片(C-terminal fragment:CTF)の産生は低酸素下での心筋細胞の生存に必要であることが報告されている。申請者は膜蛋白質の精製方法を改良し、酵素・基質中間複合体を分離した後、質量分析によってADAM17によるsheddingを制御する新規分子Regulator of EGF ligands Shedding(RES)を同定した。今年度はRESの機能評価に関する研究を実施した。RESファミリーはRES1からRES12までのメンバーによって構成されるが、siRNAによりRESの発現を抑制すると細胞の運動性が変化することを明らかにした。またファミリー間で機能の重複があることも分かった。さらにこれらの機能を分子レベルで考察するため、小麦胚芽蛋白質発現系を用いてRES蛋白質の精製を行った。現在、精製したリコンビナント蛋白質を細胞に作用させ、ADAMファミリーによるsheddingによる影響を検討している。またADAMを分子標的として使用するため、ADAMとRESの物理的相互作用の解析に向けて、両蛋白質の精製条件も検討している。
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