本研究は、癌幹細胞マーカーであるCD44が、癌特有のエネルギー産生経路である好気的解糖系を制御するメカニズムについて明らかにするとともに、CD44発現抑制に伴う代謝経路のシフトによって発生した活性酸素reactive oxygen species(ROS)が、効率的な癌細胞増殖抑制や細胞死を引き起こすか、すなわちCD44によって制御される糖代謝シグナルが癌治療のターゲットとなりえるかについて検討することを目的とし行った。[(1)各種癌細胞株におけるCD44発現とp53ステータスおよび解糖表現型の関連性について]CD44発現抑制によって、様々なp53ステータスを有する癌細胞株を用いてCD44の発現と乳酸産生、グルコース消費、ATP産生についての検討をおこなったところ、p53欠失細胞群では明らかに糖代謝傾向が強く、CD44の発現抑制による糖代謝抑制、活性酸素の産生が顕著に認められる事が分かった。[(2)メタボローム解析によるcD44発現と解糖表現型の関連性について]HcT116 p53Ko細胞にCD44RNAiを行い、メタボローム解析を行った。その結果CD44発現抑制によりTCAサイクル代謝物の上昇が認められた。このことから癌細胞におけるCD44の発現は糖代謝機構を促進させる機能があることが分かった[(3)CD44が解糖表現型において制御する分子の同定]CD44が癌細胞におけるグルコース代謝のどのステップを制御するのかを検討を行うためCD44細胞内ドメインと相互作用する分子をin vitro virus(IVV)法を用いて網羅的解析を行った。その結果CD44細胞内ドメインは、糖代謝における重要な酵素であるpyruvate kinase M2(PKM2)と結合していること、また癌細胞におけるPKM2活性を制御していることなどを見出だした。
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