本課題では、細胞を浮遊状態におくと、細胞周期阻害因子p21^<cip1>が転写レベルで誘導されるメカニズムの解明、およびこの接着応答性を利用して、転移過程(特に体循環中)にあるがん細胞に選択的細胞死を誘導する手段の開発を試みた。p21^<cip1>プロモーター上に存在する接着喪失に応答する領域を特定し、当該領域に働きかける転写因子として、KLF4およびRunx1を同定した。また、KLF4のDNAへの結合に細胞接着斑-核シャトル蛋白質Hic-5が関与していることを明らかにした(Runx1は別蛋白質による制御)。KLF4のリクルートには、Hic-5の核マトリックスへの結合が重要であった。さらに、がん転移抑制への応用を視野に入れるため、がん細胞およびその多くが由来する上皮細胞での脱接着応答性を検討したが、同定した配列は応答しなかった。そこで、上皮細胞、がん細胞で脱接着に応答して発現が変化する遺伝子群を網羅的に検索し、両細胞で発現が変化する56遺伝子、上皮細胞のみで変化する184遺伝子、がん細胞のみで変化する258遺伝子を同定した。
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