ダウン症候群などにみられる減数分裂時の染色体不分離による染色体異常の出現頻度は、母親の年齢が上がるにつれて増加する傾向にあることがよく知られている。その原因として、ヒトでは卵形成の過程で10~45年の休眠期を経るために姉妹染色体問のコヒージョンが劣化して不分離を引き起こすといわれているが、実態は明らかにされていない。近年、女性の出産年齢も高齢化していることから、母親の年齢というリスクファクターは決して軽視できる問題ではない。本研究によって、その原因とされている卵母細胞染色体の加齢によるコヒージョンの変化の有無を明らかにし、加齢依存性染色体不分離の発生機構を理解すれば、将来の生殖医療の進歩に役立つと期待される。 コヒージョンを担うコヒーシンは4つのサブユニットからなり、そのうちの3つは卵母細胞で減数分裂特異的なサブユニットに置き換わっている。これらが加齢依存的な変化を受けるのかを調べるため、体細胞分裂特異的、あるいは体細胞分裂および減数分裂共通のコヒーシン、減数分裂特異的コヒーシの検出を試みた。すなわちこれら対する抗体を用いて成体マウス卵巣の免疫染色を行った。体細胞分裂および減数分裂共通のコヒーシンは卵母細胞で検出されたが、体細胞分裂特異的コヒーシンに対する免疫染色では強染されないことが判明した。今後、コヒーシンの定量および分布を解析するための実験系を開発し、ヒトの卵巣組織にも応用する予定である。 ヒト卵巣組織を用いた研究に関しては、インフォームドコンセントの上、試料採取(腫瘍摘出手術検体の正常部)を開始した。これを用いてヒトの卵母細胞の減数分裂特異的コヒーシンを免疫染色にて検出することに成功した。
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