本研究の目的は甲状腺濾胞上皮の機能分化を司るTTF-1遺伝子に主な焦点を当て、第一はエピジェネティクス機構の修飾により甲状腺癌細胞にTTF-1を誘導する有効的な方法を確立すること、第二は分化誘導への発展性を探るべくTTF-1のgain-/loss-of-functionによるアプローチから甲状腺癌細胞においてTTF-1に誘導される甲状腺機能分子の発現と甲状腺ホルモンの産生・分泌能の獲得をin vivo、in vitroのレベルで明らかにすること、第三はTTF-1を含めた甲状腺機能分子の発現と甲状腺ホルモン産生の獲得がもたらす腫瘍抑制効果を分子物学的に検証することである。 TTF-1の全長cDNAをインサートした発現ベクターをTTF-1発現陰性の甲状腺癌培養細胞株にトランスフェクションし、TTF-1の一過性発現細胞及び薬剤選択によるTTF-1の安定発現細胞株を樹立した。一過性発現、安定発現細胞株ともにTTF-1の強制発現のみによってはサイログロブリン、TSH受容体、ヨード輸送体NIS、サイロイドペルオキシダーゼなどの甲状腺機能分子の発現や甲状腺ホルモン産生を誘導することはできなかった。 TTF-1の発現誘導による上皮間葉移行(EMT)、浸潤能への影響についてEMT関連転写因子TWIST、SNAI1、MMP2の遺伝子発現を分析したがTTF-1強制発現細胞株とTTF-1陰性コントロール細胞株で有意な差は認められなかった。 MTT細胞増殖アッセイではTTF-1発現誘導により甲状腺癌細胞の増殖抑制が有意におこることが確認された。TTF-1による増殖抑制のメカニズムをさらに探るためTTF-1強制発現細胞株とTTF-1陰性コントロール細胞株のmRNA発現の差異をcDNAマイクロアレイによって網羅的分析を行いTTF-1発現誘導により有意に増加する遺伝子群と減少する遺伝子群が確認された。
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