本研究は、神経幹細胞の分化異常と腫瘍化の関係を検討するにあたり、神経分化制御因子RFSTと細胞増殖因子β-catenin、さらにそれらの分解因子β-TrCPに注目する。通常RESTとβ-cateninは神経分化に伴ってβ-TrCPにより消失する。β-TrCPの発現もしくは活性が低下した場合、RESTとβ-cateninは残存し、それぞれ幹細胞状態の維持と高増殖能獲得に寄与すると予想される。またヒストン脱アセチル化因子の一種、HDAC6は神経幹細胞の分化に関与することが示されている。本研究は、膠芽腫や髄芽腫など、神経幹細胞由来の悪性脳腫瘍が発症する機序を明らかにし、β-TrCPやHDAC6が悪性脳腫瘍治療の標的となり得るか、基礎的知見を得ることを目的とする。上記の研究目的をふまえ、昨年度はヒト膠芽腫由来の細胞株をもちいて、各種因子のタンパク質発現レベルをウエスタンブロッティング法により確認した。その結果、ヒト膠芽腫細胞10株間で、β-TrCPやβ-catenin、RESTについて有意な発現差異が確認された。今後、高発現株についてはsiRNA法によるノックダウン、また低発現株については発現ベクターにより高発現することにより分化マーカーの発現レベルが変化するかを検討する。またヒストン脱アセチル化因子の一種、HDAC6は神経幹細胞の分化に関与することが示されている。我々はヒト膠芽腫細胞10株間で、HDAC6のタンパク質レベルまたmRNAレベルで有意な発現差異と細胞運動能との関連を確認している。今後、HDAC6が神経分化指標としてβ-TrCPやREST、β-cateninの発現量と相関するかも検討する。
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