脳腫瘍をはじめいくつかの腫瘍では、分化制御の破綻が腫瘍化に関与すると考えられている。正常な神経分化では、数万のトランスクリプトームの中からジェネティック・エピジェネティックな機構を利用し、特定の遺伝子セットを発現することで、時間的・空間的に厳密かつ正確な分化制御がなされている。一方、多くの脳腫瘍は神経幹細胞由来の未分化細胞である。すなわち自律的増殖と並び、未分化状態の維持はがん細胞の生物学的特性に大きく関与しており、無秩序な幹細胞状態の維持は腫瘍化の原因の一つと考えられる。REST(Repressor Element-1 silencing transcription factor)は、神経幹細胞において幹細胞状態の維持に必須の因子である。本研究では、RESTを中心とした神経特異的遺伝子の制御機構の破綻が、腫瘍化にどのように関連するか幾つかの培養細胞株を用いて行ってきた。現在までに、(1)非神経系細胞株においてRESTの存在量は細胞周期依存的に変動すること、すなわち通常ではRESTの分解因子の一種であるβ-TrCPなどが細胞周期により活性化することでRESTの存在量を調節するが、その機構が破綻するとRESTの異所的な蓄積が起こる可能性、(2)RESTの存在量とβ-cateninの存在量が、ある細胞株において正相関すること、すなわちWnt-catenin経路へのREST制御系の関与の可能性、(3)RESTの標的遺伝子の一種であるβIII-tubulinはα-tubulinと重合することで細胞骨格の維持に関与し、HDAC6による脱アセチル化により安定性が制御されているが、幾つかの膠芽腫でHDAC6の存在量が異なることを見出している。以上の結果は、RESTを中心とした腫瘍化機構についての基礎的知見であり、今後、さらに関連する因子との関連について解析を進める予定である。
|