MicroRNA (miRNA)は蛋白質をコードしない22塩基程度の短いRNAで、標的となるmRNAにハイブリダイズしてmRNAを分解あるいは翻訳を抑制することで遺伝子発現を制御する。私は最近マイクロアレイを用いて胃癌22症例の癌組織におけるmiRNAの発現を網羅的に解析して、miR-375が最も顕著に発現低下することを発見した。本課題では胃癌におけるmiR-375発現低下の1.メカニズム、2.臨床病理学的意義、3.生物学的意義の解明を目的とした。本年度は胃癌におけるmiR-375発現低下のメカニズムについて主に解析を行った。私たちはまず、発現低下のメカニズムとして、メチル化、アセチル化などのエピジェネティックな発現抑制を考えた。そこで私たちはmiR-375の発現が極めて低い胃癌細胞株NUGC3へ脱メチル化剤である5-azaと脱アセチル化阻害剤であるTSAを添加して、miR-375の発現を解析した。その結果、miR-375発現は両方で処理したときにもっとも発現が高くなることを発見した。この結果からmiR-375がエピジェネティックな発現制御を受けていることを示唆する。また、早期胃癌におけるmiR-375の発現を解析したところ、miR-375は上皮内癌(Carcinoma in situ)の段階ですでに発現が低下していることがわかった。これらの結果を合わせると、miR-375は胃癌の初期に、エピジェネティックなメカニズムにより発現抑制されることが示唆された。胃癌は我が国の癌死亡率第2位を占めるにもかかわらず、発症のメカニズムはまだほとんどわかっていない。近年、ピロリ菌感染によるメチル化が癌抑制遺伝子の不活化を促進させることが報告されている。miR-375の発現抑制にピロリ菌感染依存的なメチル化機構が関わっているか、今後の解析が必要である。
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