甲状腺乳頭癌は甲状腺癌の90%を占める悪性腫瘍であり、早期にリンパ節転移を来し予後不良群も存在するため、腫瘍形成の予防や転移制御の解明が急務である。一方腺腫様甲状腺腫は良性の過形成病変であるにもかかわわらず乳頭癌発生のリスクを高めることが疫学的に知られているが、その背景となる分子生物学的メカニズムの詳細は明らかにされていない。本研究では細胞増殖や運動に関連するSNX5蛋白に対するモノクローナル抗体を樹立しパラフィンブロックによる免疫組織学的解析を行ったところ、SNX5蛋白が腺腫様甲状腺腫と甲状腺乳頭癌に発現し、特に甲状腺乳頭癌で強発現していることを見いだした。さらにSNX5の高発現はmRNAレベルでも確認された。またSNX5蛋白強制発現細胞株はMTT細胞増殖アッセイにおいて、細胞増殖能の上昇がみられ、さらに細胞増殖およびアポトーシス関連蛋白の網羅的解析を行ったところ、SNX5強制発現細胞株においてG2/M期に発現する蛋白の一つが高発現することを見いだした。また甲状腺の発癌モデルマウスでの甲状腺癌組織中においてもSNX5のmRNAレベルの高発現がみられた。こうした研究結果から、甲状腺乳頭癌はSNX5の高発現によって細胞周期制御蛋白を誘導し、細胞増殖能を上昇させることが考えられた。さらにSNX5は腺腫様甲状腺腫からの甲状腺乳頭癌の発癌メカニズムを説明する可能性がある。 現在、SNX5と細胞増殖の分子メカニズムの詳細な解析を行っているが、現在までに知られる甲状腺乳頭癌の遺伝子異常であるBRAFやRASのpoint mutation、RET/PTCやTRK rearrangementとSNX5の関連を検討したいと考えている。
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