甲状腺乳頭癌は甲状腺癌の90%を占める悪性腫瘍であり、早期にリンパ節転移を来し予後不良群も存在するため、腫瘍形成の予防や転移制御の解明が急務である。本研究では細胞増殖や細胞運動に関連するという報告のあるSNX5蛋白に対するモノクローナル抗体を樹立し、パラフィンブロックによる免疫組織学的解析を行ったところ、SNX5蛋白が甲状腺乳頭癌120例中113例(94%)と高率に発現し、その他の臓器の悪性腫瘍では173例中乳癌1例(0.5%)にしか発現がみられなかったことを見いだした。さらにmRNAレベルでも甲状腺乳頭癌細胞は正常濾胞上皮細胞よりもSNX5の高い発現が確認された。次にN-bis-nitrosamineとsulfadimethoxine(SDM)を使用した甲状腺癌発癌モデルマウスを使用して、マウスのSNX5の発現を検討したが、マウス甲状腺癌組織においてもマウス正常甲状腺組織よりmRNAレベルの高発現がみられた。さらにHEK293にSNX蛋白を強制発現させた細胞株において、代表的なDNA修復因子、細胞周期調節因子、アポトーシス調節因子23種について検討したところ、腫瘍抑制、アポトーシス誘導、DNA修復などの機能が報告されているcaspase-2の増加が確認された。こうした研究結果からSNX5-Caspase2経路に基づく甲状腺癌の解析により新たな発癌機構が見出される可能性がある。
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