H23年度は対象症例を追加し、昨年度分と合わせて原発性乳癌54例を対象とした。組織型の内訳は乳頭腺管癌28例、硬癌15例、充実腺管癌7例、粘液癌2例、その他の癌2例であった。癌浸潤部においてpolysomy17は、HER2遺伝子増幅(+)群では8/22例(36%)、HER2遺伝子増幅(-)群では9/32例(28%)にみられたが、両群間でpolysomy17の出現に有意な差はみられなかった。しかし浸潤部でHER2遺伝子増幅(+)群のうち、3例は乳管内病変部でHER2遺伝子増幅(-)であり、これらの3症例はすべてpolysomy17がみられた。また浸潤部と乳管内病変部のセントロメア17の増減様式が異なる症例は6例みられた。乳管内病変部の方が浸潤部よりセントロメア17が増加していたものは5例で逆のものは1例であった。免疫組織化学染色(IHC;immunohistochemicalstain)でのHER2発現様式とpolysomy17については、IHCでHER2;1+/0群およびHER2;3+群ではpolysomy17の出現が少なく、HER2;2+群ではpolysomy17の出現が多かった。 今回の検討ではHER2遺伝子増幅の有無とpolysomy17の出現に相関性は認められなかった。しかし1つの腫瘍の中で、癌浸潤部と乳管内病変部とでHER2増幅やセントロメア17の増減様式が異なる症例が観察された。この結果を踏まえて、HER2増幅またはセントロメアの増減が乳管外へ浸潤する時点で起こった、あるいは、当初より1つの腫瘍の中に2種類以上の腫瘍細胞群が存在しその中の1種類の腫瘍細胞が浸潤した、などの仮説が考えられる。HER2遺伝子発現の多様性とpolysomy17との直接的な関連性は明らかになっていないが、浸潤部と乳管内病変部でのHER2、セントロメア17の発現様式の相違があることは、これらが癌の間質浸潤に関与している可能性が示唆される。
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