研究概要 |
前年度同様、ドキシサイクリンにより発現のON-OFFが可能なレトロウイルスベクター系を用いた、マウスNCAM-1およびIGFBP-2発現ベクター導入マウス肺癌培養細胞株をヌードマウスに接種し、癌細胞に発現するNCAM-1およびIGFBP-2が担癌宿主に及ぼす影響(浸潤性、転移性の有無)、形態変化に及ぼす影響について、病理組織学的に解析した。具体的には、上記遺伝子導入マウス肺癌細胞を経尾静脈的に5×106個/マウスで移植し、8週後に肺に形成された腫瘍について、病理組織学的に解析した。その結果、肺に形成された腫瘍数は、NCAM-1導入株>>IGFBP-2導入株、空ベクター導入株であり、NCAM-1の発現により腫瘍形成能が亢進した。またマウス屠殺時に全身解剖を行い、接種した癌細胞の多臓器転移の有無について検索したが、いずれの遺伝子導入株においても転移は確認されなかった。また各遺伝子導入株が形成した腫瘍について病理形態学的に検討を行ったが、各遺伝子導入株間に有意な形態学的差異は認められなかった。培養条件下での細胞増殖速度は空ベクター導入株>IGFBP-2導入株、NCAM-1導入株であったことから、癌細胞にIGFBP-2およびNCAM-1が発現することにより、造腫瘍能は亢進することが明らかになった。 また、NCAM-1、IGFBP-2の発現を誘導する神経/神経内分泌細胞特異的転写因子であるNeuroDの上流遺伝子について検索を推進した。その結果、NeuroDの発現を亢進させる神経/神経内分泌細胞特異的転写因子としてBRN2が同定され、またBRN2はASCL1, TTF1など他の神経/神経内分泌細胞特異的転写因子の発現をも亢進させることが判明した。
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