研究概要 |
大腸癌が筋層を越えて以降の発育進展に関する報告は少ない。またTNM分類のT3,T4の病理判定はinterobserver differenceが予想される。 我々は腹膜反転部より口側の大腸直腸癌外科切除例564例において弾性染色を施行し、漿膜直下に確認される漿膜弾性板を越える浸潤(Elastic laminal invasion : ELI)陽性症例と陰性症例の形態比較から、腫瘍が筋層を越えて以降の発育進展を考察し、大腸直腸癌におけるELIの診断的有用性を検討した。 ELI部分は陥凹を伴い硬く触知された。ELI陽性大腸癌症例は陰性例と比較して、潰瘍が深く筋層及び漿膜の挙上が高頻度に見られた。組織学的評価において大腸癌ELI陽性例は陰性例と比較して線維化が強くbuddingや脈管侵襲が強くみられた。 大腸癌においてELIは独立した予後因子であったが、直腸癌においてELIは予後との相関は乏しかった。大腸癌においてELI陽性症例は同時性リンパ節転移が1.5倍、肝転移が3.3倍、腹膜播種が22.6倍あり、肝再発が5.9倍、腹膜再発が3.7倍認められた。 上記結果から大腸癌はELIに伴い肉眼的、組織学的形態変化を示すこと。大腸癌のELIは遠隔転移や再発と相関し診断的に有用であることが示された。弾性染色を用いた客観的で予後を反映するT分類を提唱することができた。今後、当院外科切除症例の40%を占め、約20%の患者が再発するものの、術後治療効果のエビデンスに乏しい病期Stage IIの症例を再発リスクの高いELI陽性と陰性に分類することができ、術後治療の対象症例が変わる可能性がある。
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