我々は以前に小型肺腺癌の術後再発を最も強く規定するのは脈管侵襲の有無であること明らかにした。本来、正常な上皮細胞は細胞外基質から遊離するとアポトーシス(上皮細胞のanoikis)に陥るのに対し、癌細胞はanoikis抵抗性を獲得しているため、脈管内に浸潤し、その内腔で浮遊状態となっても生存し続け、やがて一部が他臓器に生着し、転移巣を形成すると考えられる。本研究では、20例の脈管浸潤陽性の原発性肺腺癌組織と9種の肺腺癌細胞株を用いてanoikis抵抗性の分子機構を解析した。肺腺癌組織のリンパ管内に浮遊する腺癌細胞(anoikis抵抗性のin vivoモデル)はE-cadherinを発現する胞巣を形成し、細胞外基質と接着した癌細胞よりも有意に強くphosphorylated(p)-Srcを発現していた。また肺腺癌細胞株を低接着性培養皿で浮遊培養すると全ての細胞株でSrcの発現が誘導された。さらに4種の細胞株は浮遊培養されると、肺腺癌組織の脈管内に浮遊する癌細胞胞巣と類似したp-SrcとE-cadherinを発現するspheroidを形成した。これらの4種のspheroidは、Src tyrosine kinase inhibitor(TKI)であるPP1あるいはbosutinibを用いてSrcのキナーゼ活性を低下させると程度は様々であるがアポトーシスに陥った。よって肺腺癌細胞のanoikis抵抗性にはSrcのキナーゼ活性が一定の役割を果たしていると考えられた。さらにこのSrc TKIが誘導する肺腺癌細胞のanoikisはBcl-2阻害薬(BH3 mimeticとも呼ばれる)であるABT-263 1μMを添加することで顕著に増強されることも見出し報告した。しかし上記の実験結果は主として短期(24-48時間)の実験により得られたものであるため、Src阻害薬とABT-263の併用療法を長期間行うことにより全ての肺腺癌細胞が実際にアポトーシスに陥るか否かの確認を行っているところである。
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