我々は数年来、脈管内に浮遊した肺腺癌細胞を治療標的とすべく"肺腺癌におけるanoikis抵抗性の研究"を行ってきた。その結果、tyrosine kinase Srcが肺腺癌細胞のanoikis抵抗性に一定の役割を果たしていること(Sakuma et al.J Pathol 2010)、およびSrc tyrosine kinase inhibitors(TKIs)が誘導する肺腺癌細胞のanoikis(apoptosis)はBcl-2阻害薬(BH3 mimeticとも呼ばれる)であるABT-263を添加することで顕著に増強されることを前年度までに見出し報告した(Sakuma et al.Oncol Rep 2011)。今年度は日本人の肺腺癌の半数以上に認められるepidermal growth factor receptor(EGFR)遺伝子変異陽性(EGFR mutant)の肺腺癌に焦点を当てた。EGFR mutant肺腺癌細胞は、浮遊培養系(脈管内や胸水中に浮遊する癌細胞のin vitro model)ではEGFR TKIsに対して高感受性を:示し容易にapoptosisに陥るのに対し、通常の単層接着培養系で維持された場合、その癌細胞が発現するEGFRの自己リン酸化(活性化)は浮遊状態と同様にEGFR TKIsにより完全に抑制されるにもかかわらず、EGFR TKIsが誘導するapoptosisに顕著に抵抗性を示すという興味深い現象を見出した。さらに我々は生体内に存在するEGFR mutant肺腺癌細胞は、細胞外基質と接着していても、脈管内に浮遊していても同様に変異型EGFR蛋白を発現していることも確認した。これらの結果を総合すると、生体内において脈管内に浮遊するEGFR mutant肺腺癌細胞はEGFR TKIsの格好の治療標的であり、これらの細胞を積極的に治療し細胞死に誘導することにより転移成立を減少させうると考察した。この研究成果は既に論文として発表した(Sakuma et al.Lab Invest 2012)。
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