生体内に発生した癌細胞の排除は、いかに癌特異的キラーT細胞を効率よく誘導し、活性化できるかが非常に重要である。本研究では、担癌状態での癌抗原特異的キラーT細胞の誘導過程において、樹状細胞による癌抗原のクロスプレゼンテーション制御に関する詳細な分子メカニズムについて解明を行った。 前年度までの実験結果をもとに、樹状細胞の抗原提示機構に対して、TLR刺激およびサイトカインシグナルが影響しているかどうか検討した。その結果、樹状細胞による抗原ペプチドの提示については、複数のTLRシグナルによる相乗的な増強効果を認め、エンドサイトーシス/ファゴサイトーシスによる抗原の取り込みも非常に重要であることが分かった。また癌抗原特異的キラーT細胞の誘導過程において重要なタイプ1サイトカインであるIFN-γのSTAT1を介した信号伝達経路により、樹状細胞に神経ペプチド受容体の一つであるNK2Rが発現増強することを見出した。さらにレトロウイルス感染法によりNK2R分子を過剰発現させた樹状細胞は、抗原ペプチド提示能が増強することが明らかとなり、NK2Rを介した神経ペプチドシグナルが樹状細胞の機能制御機構に関与することが示唆された。 健常人ボランティアより提供されるヒト末梢血よりヒト樹状細胞を誘導した。このヒト樹状細胞をIFN-γやOK432などのサイトカインあるいは免疫アジュバントを用いて処理を行ったところ、ヒト癌抗原特異的T細胞が効率良く誘導できることがわかった。さらにヒト樹状細胞においても、IFN-γやpolyICなどのTLR刺激により、前述のNK2R分子の発現増強が確認された。従って、本マウス樹状細胞を用いた実験系で得られた実験結果が、ヒト樹状細胞においても有効である事が明らかとなり、今後、樹状細胞の機能制御を介したヒト癌抗原特異的T細胞誘導の機序解明と疾患治療への応用が期待される。
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