筋芽細胞移植は、心移植に代わる再生治療法として非常に有望なものの一つである。ところが現状では、術後の致死性不整脈の発生、および収縮力改善効果の乏しさという2大欠点のため、試験的な臨床応用の域に留まらざるを得なかった。そこで申請者は斬新なアイデアにより、この2つの欠点を同時に克服する手法の開発に成功した。筋芽細胞に予め、蛋白Pを発現させておいてから心筋細胞と共培養すると、筋芽細胞はやがて、ほぼ全てが心筋ミオシンを発現するようになった。なおこの効果は、筋芽細胞に何も発現させない場合にも、ごく僅かではあるが見られ、また、蛋白Pのドミナントネガティブ型を発現させた場合には全く観察されなかったことから、次のことがわかる。(1)類心筋化は蛋白P発現の効果であること。(2)ある条件では蛋白の強制発現なしで筋芽細胞を類心筋化させられる可能性のあること。さらには、動物個体を用いた予備的な実験により、新手法の心収縮力改善効果は従来法を遥かに凌ぐことが判明した(personal communications)。現在、培養レベルでのさらなる解析、および不整脈防止効果の確認など、国外での臨床治験実施に向けて最終調整を行っている。なお将来、我が国での臨床治験を実現させるためには、現状のような遺伝子導入に依存する手法のままでは著しい実現の遅延(或いは実施不可能?)が予測される。そこで今後、国外臨床治験への関門を突破するや否や、筋芽細胞に自発的に蛋白Pを発現させる新たな手法の開発に着手する所存である。これが、特に心移植件数の少ない我が国の重症心不全患者の方々を救命する最短距離であると申請者は信ずる。
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