拡張型心筋症、梗塞後心不全に代表される重症心不全は、先進国において入院・死亡に至る最大の原因であり、その対策は焦眉の急となっている。現存する治療のなかでは、心移植が唯一、根治療法と呼べるものであるが、社会的・医学的な制約が大きく、実施できる症例もほんの一握りに過ぎない。この状況の打開を図るべく、さまざまな心筋再生治療法が考案され、なかでも骨格筋芽細胞移植は最も有望なものの一つであった。ところが、欧州でいざ臨床治験が為されてみると、(1)重篤な心室性不整脈を惹起する危険性が大きいこと、及び(2)心収縮力回復効果が充分とは言い難いこと、が判明し、一大ブレイクスルーが切望されている現状であった。 そこで申請者は、あらかじめ筋芽細胞に、ある蛋白Pを発現させておいてから移植する手法を新たに考案し、上記2つの問題の同時解決を図った。その結果、次の新事実が判明した。(1)蛋白Pを発現した筋芽細胞を培養心筋細胞と共培養することにより、筋芽細胞は心筋ミオシンを発現するようになること。(2)このときの筋芽細胞は、心筋細胞と同調収縮しており、重篤な不整脈を回避できる可能性が高いこと。(3)(1)の「心筋化」現象は、非常に有名な、あるシグナル伝達経路を介して起こっていること。 現在、(1)と(3)のデータを携え、超一流国際誌への掲載を目指しているが、話が細胞の共培養系では済まず、「小動物」個体レベルでの細胞移植実験や心カテーテル実験等が要求されるなど、実験手技的な壁に直面しているというのが、平成25年3月末時点での現状である。
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