研究課題
マラリアは世界で最も致命的な感染症の一つであるが、有効なワクチンはまだ存在せず、宿主の免疫反応多くは不明のままである。宿主と寄生虫との関係のメカニズムを理解することで、新薬やワクチンといった新たな治療法を開発することが可能になると考えられている。我々はマラリア感染における自然免疫システムの役割について研究を進めている。最近脳マラリアに感染したマウスの脳における遺伝子発現解析によりリポカリン2(Lcn2)に顕著な発現上昇が見られることを発見した。Lcn2はリポカリンファミリーの一種で、アポトーシスの誘導や鉄の運搬といった生物学的過程を仲介する役割を果たすと考えられている。そこでLcn2が、寄生虫の鉄代謝あるいは宿主の免疫反応にかかわる分子なのではないかという仮説をたて、本研究を開始した。Lcn2KOマウスを用い、マウスマラリア原虫(P. yoelii non-lethal (NL))を感染させたところ、赤血球期における高い原虫血症が遷延し、死亡率も上昇していた。その原因を詳細に解析した結果、原虫感染によりLcn2KOマウスは非常に多くの赤芽球が末梢血中にみられ、そのほとんどが感染していた。結果として重症の貧血が進行し致死的になっていると考えられた。また、野生型マウスの感染では肝臓や脾臓にLcn2蛋白を発現している好中球が多く見られるのに対し、Lcn2KOマウスでは好中球の遊走、集積自体も減少していた。さらに、原虫を捕捉しているマクロファージの数も特に感染後期の脾臓にてLcn2KOマウスで著名な減少が見られた。上記のようなLcn2依存性の鉄代謝経路の制御やそれに伴う各種免疫機能が、マウスマラリア原虫(P. yoelii non-lethal (NL))では重要な役割を担っていることが示唆された。また、ヒトマラリア感染でも血清中Lcn2の上昇が見られることから、ヒトを含むマラリア感染症に対する新たな治療戦略のターゲットになりうることが示唆される。
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