マラリア原虫において遺伝子発現調節メカニズムは不明な点が多く、ゲノム上における遺伝子間障壁と遺伝子発現メカニズムについてこれまで知られていない。哺乳類においてゲノム上のコヒーシン集積部位と遺伝子間障壁を担うDNA配列(インスレーター)に相関性がみられていたことから、マラリア原虫ゲノム上でのコヒーシンの分布を解析することで、インスレーター領域を探索し、マラリア原虫のゲノム上における遺伝子発現機構の一端を明らかにすることを目指した。マラリア原虫のコヒーシンの詳細な研究はされておらず、特異的抗体も無いことから、これまでコヒーシンオーソログであるPfRad21、PfSMC1、PfSMC3をマラリア原虫よりクローニングし、蛍光タンパク質タグを付加したプラスミドをマラリア原虫に遺伝子導入した。ゲノムDNA上のコヒーシン部位と導入したプラスミドのコヒーシン部位を相同組換えさせ、相同遺伝子組換えマラリア原虫を得るため、選択薬剤の下6か月以上培養を行った。さらにこの間にはマラリア原虫のコヒーシンに対する特異抗体の作製も行った。現在、相同遺伝子組換えマラリア原虫を確認しており、これを基にChIP法からのDNA断片を次世代シーケンサーを使用してゲノムデータベース上にマッピングする。マッピング後、赤内期におけるマラリア原虫の各ステージにおけるコヒーシン分布を比較し、遺伝子間領域に存在する配列を相互比較することにより、インスレータードメインを決定する。コヒーシン集積部とインスレータードメインを相互解析することで、マラリア原虫の遺伝子発現メカニズムの一端を明らかにすると共に、コヒーシン集積部を遺伝子導入コンストラクトに挿入することで、正確なタイミングで発現し、かつ発現抑制を起こさない効率の良い遺伝子導入法を目指している。
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