研究概要 |
腸管寄生性原虫赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)における貪食過程に関与するイノシトールリン脂質シグナルについて解析を行った。赤痢アメーバの貪食は栄養源の取得以外に寄生環境でホスト細胞・組織の貪食を行うことで組織障害や免疫細胞へのダメージを引き起こし、病態形成に重要な働きをすると考えられている。よって貪食の分子機構の解明は赤痢アメーバの病原機構の理解に重要である。 以前論文発表したFYVEドメインとRhoGEFドメインを持つEhFP4分子の解析(Nakada-Tsukui et. al., Cell. Microbiol., 2009)から、貪食過程にPI4Pが関与することが考えられた。そこでPI4Pに結合することが知られるFAPP1とOSBPのPHドメインにGFPを融合し、赤痢アメーバでの局在を検討した。しかし定常的発現が難しく、解析可能なGFP融合タンパク質を発現する細胞の割合は約1%以下であった。発現細胞数が低い中でも発現細胞における局在の検討を試みたが、細胞膜への局在がみられず、細胞全体にGFPのシグナルが観察された。赤痢アメーバにおいて脂質結合ドメインの立体構造が上手く保てなかったのか、赤痢アメーバのPI4P量が少なく、特異的局在を検出するに至らなかったのか、PI4Pに対する抗体を用いて検討中である。 また、PI3Pに結合する分子の同定を試みた。PI3PまたはPIを固層化したビーズを用いて共沈するタンパク質を検索したが、結合するたんぱく質が検出されなかった。そこでPI3Pを含むリポソームを用いた実験系を試みた。しかしバックグラウンドが高くなり、やはり特異的結合タンパク質を同定するに至らなかった。PI3P結合タンパク質は少なくとも貪食胞上に集積することから、ビーズやリポソームと反応させる材料を貪食胞膜上から精製するなど、より感度のよい検索方法を確立する必要がある。
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