マラリア原虫ゲノム上には、遺伝子毎のcis-elementに結合する「転写調節因子」の既知のホモログが殆ど存在せず、「マラリア原虫の遺伝子発現調節にどの様に転写調節因子が寄与するのか」理解が進んでいない。我々は原虫遺伝子発現のモデルケースとして赤血球内寄生期の細胞周期に依存した発現を示す抗酸化タンパク遺伝子、pfl-cys-prx及びpftpx-1の転写調節機構を詳細に解析してきた。これまでの結果から、我々はpfl-cys-prxのcis-elementに特異的に結合する核内因子が発現制御に関与する可能性があると考え、その単離同定を試みた。培養原虫、5X10^<11>cellsより核抽出物を調製し、そこから5段階のクロマトグラフィーを経て目的の因子を精製した。精製されたフラクションをSDS-PAGEによって展開した結果、目的の因子の候補をゲル上の3本のバンドに絞り込むことができた。これらを切り出しLC/MS/MSによる質量解析をおこなった結果、約20種類の候補タンパクが同定された。これらのうち、特に質量解析でペプチドの検出数が多かったタンパク4種類にFLAGタグを付加し、その遺伝子をマラリア原虫に過剰発現させた。この過剰発現原虫より、抗FLAG抗体ビーズを用いて発現タンパクを精製し、pfl-cys-prx遺伝子のcis-elementに対する結合活性をゲルシフトアッセイによって確認した結果、候補のひとつにcis-elementの配列に特異的な結合活性が認められた。また、このタンパクに対するペプチド抗体を作製し、原虫核抽出物とpfl-cys-prxのcis-element(プローブ)によるゲルシフトアッセイの反応液に加えたところ、スーパーシフトが認められ、正しく目的の因子が同定されたことが示唆された。このタンパクは、既知の転写因子とは全くホモロジーを持たない新奇のタンパクであり、新しい原虫独自の転写因子である可能性が高いと考えられる。
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