研究概要 |
マラリア原虫ゲノム上には遺伝子転写調節領域(cis-element)に結合する「転写調節因子」の既知のホモログが殆ど存在せず、転写制御機構の理解が進んでいない。私は原虫赤内期の細胞周期に依存した発現を示す遺伝子,prxの転写調節機構を詳細に解析し、cis-elementに特異的に結合する核内因子が発現制御に関与する可能性があると考えた。昨年度は原虫から直接この因子を単離、Massによって約60kDaの新規タンパクを同定した。今年度は更にこの因子の解析を進めた。この因子に対する特異的ペプチド抗体を作製し、原虫核抽出物とcis-element配列を用いたゲルシフトアッセイの反応液中に加えたところ、cis-element・因子・抗体の複合体に由来するスーパーシフトバンドが形成され、目的の因子が確実に同定されたことが示された。この因子はデータベース上では"hypothetical protein"として登録されていた(登録名QF122 antigen 以下QF122とする)。QF122は既知の原虫の転写因子とはホモロジーを持たず、新しい原虫独自の転写因子である可能性が高い。データベース上のORFから予測される分子量は130kDa、Massではその中央部分の約60kDaに相当する部分のペプチドが検出されており、この部分が核内で作用すると考え、中央部分の60kDaのみを過剰発現させた原虫を作成した。この過剰発現原虫ではprxの発現量に影響が見られず、130kDaのORFにコードされるタンパクのN末とC末は中央部が正しく機能する為に必要な領域である可能性が示唆された。またQF122は無細胞合成系による組換え体ではcis-elementへの結合活性を示さなかったが、原虫細胞自身を用いた組換え体では結合活性を示したことから、原虫細胞内で特異的な修飾を受けることによって結合活性を得ることが予測された。
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