本研究では、赤痢菌III型分泌タンパクであるOspIが宿主細胞の免疫応答を抑制する新規のType IIIエフェクターであることを見いだし、赤痢菌感染における役割について検討した。マイクロアレイ解析の結果、ospI欠損株感染細胞では、ケモカイン(IL-8、MIP-2、MIP-3、MCP-1)と炎症性サイトカイン(TNFα、IL-6)の顕著な発現量増加が見られた。NF-κBは免疫応答におけるIL-8、TNFαの誘導に必須の経路である。そこで、NF-κB活性化におけるOspIの役割について検討した。その結果、OspI欠損株感染細胞において、菌の侵入直後、10分後にIκBαリン酸化の亢進が認められた。さらに、OspIの異所的発現実験によって、OspIの作用機序について検討した。その結果、OspIはTRAF6依存的なNF-κB活性化を抑制するが、TAK1/TAB1、IKKβ、p65によるNF-κB活性化を抑制できないことを示した。免疫沈降実験によって、TRAF6がOspIと共沈するを示した。そこで、E3 IigaseであるTRAF6のin vitro ubiquitination assayを行った。その結果、OspIはTRAF6の自己ユビキチン化を優位に抑制した。結晶構造解析によって、OspIの立体構造を明らかにした。その結果、OspIはシステインプロテアーゼ様の立体構造をもち、システイン(C)、ヒスチジン(H)、アスパラギン酸(D)からなる活性中心(C-H-D trial)を持つことが示唆された。本研究は赤痢菌感染における感染初期の免疫応答の回避機構のを明らかにすることのみならず、赤痢菌の宿主特異性を明らかにすることが期待される点で意義がある。
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