研究概要 |
平成22年度は,細菌感染MΦにおけるアポトーシスがMΦ内殺菌に直接関係しているのか否かについて明らかにするため,特に,どのようなシグナルによって誘導されたアポトーシスがMΦ殺菌能の亢進を引き起こすのかについての検討を行った。供試菌として,Mycobacterium smegmatis SM14株を用い,宿主MΦ細胞としてはZymosan Aにて誘導したBALB/cマウス腹腔MΦ(PEC),774.1MΦ細胞株(J774.1MΦ),またはRAW264.7MΦ細胞株を用いた。MΦに対するアポトーシス誘導剤として,etoposide,ATP,TNF-α,Fas ligand,α-(Trichloromethy1)-4-pyridineethanol(PETCM),およびforskolinを用いた。 まず,etoposideによるJ774.1MΦに対するアポトーシス誘導の経時的変化を明らかにするため,J774.1MΦをetoposide存在下で48時間にわたり培養し,MTTアッセイにより細胞生存率を求あた。その結果をもとに,M.smegmatis感染MΦをetoposideで18時間処理した後の宿主MΦ内における生残菌数を求めた。その結果,etoposideにより宿主MΦ細胞内のM.smegmatisが殺菌される現象が観察された。しかしながら,etoposideは細胞膜を透過し,また,topoisomerase IIの他にDNA gyraseに対する阻害作用も有するため,宿主MΦ内の菌に対する直接的な影響が考えられた。そこで,etoposideのM.smegmatisに対するin vitroでの殺菌作用について検討を行ったところ,etoposideは直接的に殺菌作用を示すことが分かった。他方,M.smegmatisを感染させたPECをATP存在下で培養することにより,時間経過とともにPECのアポトーシスが誘導され,宿主MΦのアポトーシスの進行に連動したMΦ内殺菌能の増強作用が観察された。その他,TNF-α,Fas ligand,さらにcaspase-3活性の増強を惹起してアポトーシスを誘導することが知られているPETCM,細胞内cAMPの増加を介してアポトーシスを誘導することが知られているforskolinを用いてMΦのアポトーシス誘導を試みたが,いずれも供試MΦに対するアポトーシス誘導作用を示さなかった。次年度は,宿主MΦのアポトーシスと連動した殺菌能増強メカニズムにおける細胞内シグナル伝達経路を特定するとともに,この殺菌能の増強に関与する抗菌活性物質について明らかにする予定である。
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