研究概要 |
平成23年度は,宿主マクロファージ(MΦ)のアポトーシスと連動した殺菌能増強メカニズムにおける細胞内シグナル伝達経路を特定するため,以下の検討を行った。なお,供試菌として,Mycobacterium smegmatis SM14株を用い,宿主MΦ細胞としてはZymosan Aにて誘導したBALB/cマウス腹腔MΦ(PEC),またはRAW264.7 MΦ細胞株を用いた。MΦに対するアポトーシス誘導剤として,ATPおよび1-(3,4-Dichlorobenzyl)-1H-indole-2,3-dione)(Apoptosis activator II : AA II)を用いた。 まず,ATPによるM.smegmatis感染PECのアポトーシス誘導と殺菌能増強作用との連動性について検討を行った。PECはATP存在化で一定時間培養すると,時間経過とともに細胞死が誘導され,また,M.smegmatis感染PECでは,ATPによる細胞死の進行に連動してMΦ内殺菌能の増強が観察された。次にcaspase-3阻害剤(Z-DEVD-FMK)およびcaspase-1阻害剤(Ac-YVAD-AOM)を用いて,これらのcaspaseの活性化の前後のシグナル伝達における殺菌能への影響についての検討を試みた。しかしながら,何れの阻害剤においても,ATPによるPECの細胞死誘導を阻害することが出来なかった。ATPによる細胞死の誘導は,これまでに報告されているようなcaspase-3を介したもの(アポトーシス)やcaspase-1を介したもの(ピロトーシス)以外の経路を介して誘導されている可能性が示唆された。 他方,M.smegmatisを感染させたRAW264.7 MΦに対して,Apaf-1の多量体化を引き起こし,アポトーシスを誘導することが知られているAA IIを処理することにより,RAW264.7 MΦの細胞死に連動した殺菌能増強作用の連動性が観察された。また,AA IIで誘導されるRAW264.7 MΦのアポトーシスは,Z-DEVD-FMK存在下において部分的に阻害され,それに伴って,AA IIによるRAW264.7 MΦの抗M.smegmatis殺菌能増強作用は部分的に減弱した。この成績より,AA IIによるMΦのアポトーシスに連動した殺菌能の増強作用機構においては,caspase-3の活性化以降のシグナルが部分的に関与している可能性が示唆された。
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