敗血症の病態では、過剰に産生された活性酸素などにより、組織の損傷が起こりやすくなっている。一方、生体は感染の重篤化、あるいは外傷による組織障害に際し、危険信号を周囲に伝える"alarmin"と呼ばれる一連の分子を細胞外に放出し、免疫担当細胞を刺激・賦活化する。これらのalarminの中で核内タンパク質であるHMGN1は、細胞外に漏出すると、樹状細胞に対するサイトカイン産生・分化誘導能を示すことが最近見出され、alarmin候補として注目されているが、実際に敗血症の病態で働いているかは不明である。平成23年度はマウスマクロファージ様細胞RAW264.7をLPS刺激する際にCaspase選択的阻害剤であるzVAD-fnkおよびAc-YVD-choを添加し、上清中へのHMGN1の放出、IL-1βの産生、LDH活性の変化を評価し、以下の知見が得られた。すなわち、HMGN1はLPS刺激時間依存的にRAW細胞から放出され、この放出はYVAD-choの添加によって影響を受けなかった。さらに、LPS刺激による上清中のLDH活性、IL-1βのHMGN1の放出に伴う上昇に対して、YVAD-CHOの添加によりIL-1βの産生は抑制されたが、LDH活性は抑制されなかった。これらの結果から、HMGN1は敗血症の病態においてLPS刺激により誘導された細胞死に依存して放出され、またこの放出は細胞内のcaspase-1の活性化(IL-1β産生)とは無関係であることが分かった。また、研究計画に従ってリコンビナントマウスHMGN1の発現系を哺乳動物細胞を用いて構築したが、その発現は非常に弱いものであった。現在、より発現効率の良いplasmid、あるいは発現系を哺乳動物細胞から変更することを検討中であり、十分な発現量が得られた場合、HMGN1の動物への投与実験へ以降する予定である。
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