クラミジアは偏性細胞内寄生性病原体であるがゆえに、宿主細胞を制御することがその生存戦略上必須である。そのためにクラミジアは多数の病原因子(エフェクター)を宿主細胞に向けて分泌していると考えられるが、現在までに知られているものは少ない。そこで我々は酵母発現系を用いた病原菌エフェクターの網羅的スクリーニングシステムを開発し、酵母増殖阻害を示す62個の遺伝子を肺炎クラミジアのエフェクター候補として同定した。このうち、Fke034およびFke063の二つの肺炎クラミジア特異的分子について解析をすすめた。Fke034およびFke063に対する特異的抗体を作成し、肺炎クラミジア感染細胞にて、これら分子の挙動を解析したところ、いずれも感染後、肺炎クラミジア菌体から宿主細胞へと移行しており、これらの分子を新たなエフェクター分子として同定した。 1)Fke034は感染細胞の細胞膜に局在した。GST -Fke034を用いてpull-downを行った結果、Fke034に特異的に結合する約60 kDaのタンパク質を得て、これがヒトProtein kinase C and casein kinase substrate in neurons protein 2 (PACSIN2)であると同定した。さらにヒト細胞にFke034を発現させるとPACSIN2はFke034と一致して膜に局在した。これらの結果から、Fke034がPACSIN2の機能を調節することが示唆された。 2)Fke063は宿主の核内に局在し、一方で酵母に発現させるとエンドソームの機能を阻害した。抗Fke063抗体は肺炎クラミジアの感染を阻害し、さらにFke063が肺炎クラミジアの菌体表面に存在することがわかった。これらの結果は、Fke063が宿主細胞内に輸送される前に菌体表面に分泌されていることを示唆している。
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