既知のイソニアジド耐性変異を持たないイソニアジド耐性臨床分離株を多数同定した。これらの株を解析した結果、イソニアジド耐性遺伝子inhAの上流に位置するfabG1において、新規変異g609aを見出した。この変異はイソニアジド感受性株において見出されないことから、イソニアジド耐性に寄与している可能性が考えられた。当該変異を結核菌標準株H37Rvにおいて再構築したところ、イソニアジド耐性が与えられた。また、ウェスタン解析によってinhAの発現量が増加していることを確認した。この結果は、g609a変異によってInhAが過剰生産され、イソニアジド耐性が与えられた可能性を示唆するものである。g609aによるInhAの過剰生産が転写量の増加によるものなのか、それとも翻訳量の増加によるものなのかを明らかにするために、qRT-PCRによってinhAの転写量を調べた。その結果、当該一変異によってinhAの転写量が増加していた。また、RNA-seq解析も実施し、当該変異を持つ株ではinhA転写産物量が増加していることを確認した。これらの結果に加えて、g609a変異がアミノ酸置換を伴わないサイレント変異であること及び変異部位がinhAの開始コドンに近いことから、当該変異がinhAの発現に関わるシスエレメントとして機能していると考えた。そこで、当該変異を含む近傍の塩基配列をプロモーターレスのlacZ上流に挿入し、β-galactosidase解析を行った。その結果、変異によって転写が促進された。これは、g609aが近傍の配列と共に新たなプロモーターとして機能しているもしくはもともとその部位に存在した弱いプロモーター活性を増大させている可能性を示唆するものである。現在、これらの成果を論文としてまとめている。
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