本研究課題では腸管出血性大腸菌(以下EHEC)のベロ毒素遺伝子stxを保有するstxプロファ-ジのうち、毒性の強いstx2、Stx2低産生性であるstx2c、stx1についてEHECのべ151株のstx下流領域の塩基配列多型の解析を行った。本年度はこれらの多型配列の系統樹解析、Stx2産生性の比較、ゲノム上のstxプロファージ挿入部位を解析した。 その結果、stx2下流領域91配列から18種類、stx2c下流領域54配列から19種類、stx1下流領域78配列から11種類の多型配列が検出された。定常状態のEHECから菌体外へ放出されるStx産生量とこれらの多型配列に有意な相関性は検出されなかった。しかし、stx下流領域の多型配列を系統解析した結果、以下の新たな知見が得られた。①stx1下流領域の多型配列はEHECのstx保有状況、(stx1 stx2)と(stx1 stx2c)の組み合わせで異なるクラスターを形成した。②stx2c下流領域では血清型やstx保有状況に対応しない多型配列クラスターが形成され、(stx1 stx2c)、(stx2c)、(stx2 stx2c)の組み合わせで同一の多型配列が検出された。このことからstx2c保有型EHECではstx2cプロファージ内で多型が出現した後にstx1ファージもしくはstx2ファージが溶原化したと考えられた。③stx2下流領域の多型配列はO157単独のクラスターとnon-O157・O157のクラスターを形成した。これらのクラスター間ではstx保有状況、ゲノム上でのstx2プロファージ挿入部位も異なっていた。このことから、少なくともstx2プロファージはO157とnon-O157では異なるタイプが存在しており、一部のO157ではこれらのnon-O157からstx2プロファージを伝播・保持している可能性が示唆された。
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