研究概要 |
ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)は一部の感染者に白血病や慢性炎症性疾患などの病気を引き起こす。本研究ではHTLV-1による病原性発現機構を明らかにするために、HTLV-1感染細胞、ATL細胞において恒常的に発現しているウイルス遺伝子HBZに注目して病原性発現機構について解析を行った。 HBZトランスジェニックマウスを用いた解析では異常なFoxp3+制御性T細胞の増加を認め、慢性炎症やリンパ腫等の感染者と類似の病気を起こすことが明らかとなった(PLoS Pathogen 2011)。 その分子メカニズムとして以下の事を明らかにした。 (1)HBZはp300と協調する事で宿主の細胞内シグナルTGF-bを活性化しFoxp3の発現を誘導すること (2)HBZを制御性T細胞に発現させると、転写因子Foxp3の機能を阻害すること (3)HBZによる制御性T細胞の異常誘導メカニズムとして、宿主転写因子であるNFAT, Foxp3とinteractionすること(PLoS Pathogen 2011) さらに制御性T細胞の異常の有無についてヒト感染者で検討を行った。50例のHTLV-1感染者(ATL10例、HAM/TSP患者10例、無症候性キャリア30例)と10例の健常人を比較対象コントロールとして解析を行い、以下の結果を得た。 (1)HTLV-1感染者ではFoxp3陽性制御性丁細胞の増加を認めた。 (2)プロウイルスの量とFoxp3陽性細胞の間に正の相関を認めた。 以上の事はHBZトランスジェニックマウスで見られたCD4T細胞分画の特徴が実際の感染者のものとよく相関していることを示している。 本研究によりHTLV-1感染細胞でHBZ遺伝子の発現により誘導されるFoxp3制御性T細胞の異常は、HTLV-1の病原性において非常に重要である事、さらにその分子メカニズムについて明らかとなった。
|