本研究では、プリオン病の原因となるプリオンに結合し、プリオン感染を阻止できるファージワクチンの開発を目的として、ファージディスプレイ技術によるワクチン抗原の分子設計およびM13バクテリオファージが誘導する免疫応答のメカニズムの解明を試みた。 バクテリオファージは私共の生活環境に常在する細菌に感染するウィルスであるが、M13バクテリオファージが誘導する免疫応答について解析した結果、M13バクテリオファージは、マウスにおいて既存のアジュバントなしのPBS溶液を一回投与するだけで、長期にわたるIgG抗体応答を誘導できることが明らかとなった。この抗体応答は、IL-1受容体およびToll様受容体のアダプター分子であるMyD88を欠損したマウスでは観察されないため、M13バクテリオファージが引き起こす抗体応答には、MyD88シグナリングに依存した自然免疫反応を介していることが示唆された。また、ファージディスプレイ技術に基づいてプリオン抗原を効率的かつ多価でディスプレイするために、シグナル配列の検討、ファージミドベクターの改変を行った。次年度は、プリオン抗原をディスプレイしたファージが誘導する抗体応答の詳細誘導される抗体応答について解析するとともにバクテリオファージが強力な自然免疫を誘導すると分子メカニズムの解明を試みる。本研究の推進により、アジュバントを使用せず強力な免疫誘導能を有する安全なワクチンの分子設計が可能になることが期待される。
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