フレンド白血病ウイルス(Friend virus; FV)は成体マウスに免疫抑制に伴う持続的なウイルス血症とそれに引き続く致死性の赤白血病を誘発するレトロウイルスである。FV感染による免疫抑制(抗原特異的CD8T細胞機能不全)の実態はこれまで感染後期に誘導される制御性T細胞(Treg)によるものと考えられてきた。しかしながら、申請者はFV感染初期における爆発的なウイルス感染細胞の増加とこれに伴う極度の刺激がウイルス特異的CD8T細胞の疲弊(ehxaustion)を誘発し、これが機能不全の原因であることを報告した(Takamura et al. J Imunol. 2010)。更に、申請者はFV持続感染個体にて機能的メモリーCD8T細胞が全く検出されないことに不審を抱きFV感染形態を再検討したところ、これまで報告されていた骨髄、脾臓のみならず、胸腺もFVの感染・複製の標的臓器の一つであることを突き止めた。通常持続感染期に胸腺より供給された抗原特異的ナイーブCD8T細胞は、末梢で残存抗原により活性化され機能的メモリーCD8T細胞へと分化する。しかしながらFVの胸腺感染は、ウイルス抗原が自己抗原と見なされることでウイルス特異的免疫寛容を誘導し、持続感染期におけるウイルス特異的ナイーブCD8T細胞の供給(機能的メモリーCD8T細胞の源)が遮断され、これが持続感染期における機能的メモリーCD8Tの枯渇原因となっていることが申請者の研究により明らかとなった。また、このウイルス特異的免疫寛容の誘導にはウイルスに感染した胸腺樹状細胞、胸腺上皮細胞が重要な役割りを果たしていることも明らかとなった(論文執筆中)。従って、FVは早期疲弊の誘導により末梢性のCD8T細胞免疫応答を、また免疫寛容により中枢性のCD8T細胞免疫応答を共に回避する術を備えていることが明らかとなった。
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